小説「涼宮ハルヒの消失」の世界でキョンと長門が会った後からのパラレルワールド的SS。一応、うp順にストーリーはつながってます。長門は俺の嫁。谷口自重。ずっと長門のターン。ちなみに消失を読んでない方には分かり辛いと思います。
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 勢いで作った。反省はしてない。 彼ともう一度、会話する機会をもつなんて有り得ないと思っていた。私はとても自分から誰かに話しかけられるような性格でもない。ましてや彼は私のことなど覚えていないに違いない。私の生きがいは一人きりの部活で本を読むこと。楽しくお喋り出来る友達もいないし、お洒落にも縁がない。こんな私が彼に想いを寄せていても迷惑なだけだろう。そう自分に思い込ませて、時折学内で見かける彼をずっと避け続けてきた。どうせ彼は私の存在を認識していないのだから、避ける必要性などないのだけど、自然とそうしていた。 だけど今、この数ヶ月の間に私以外に誰も訪れることのなかった部室の扉を開け、我が物顔で私のテリトリー内に入り込んできた男は、紛れもなく彼だった。 「いてくれたか……」 入ってくるなり彼が放った言葉が、それだった。私にはその言葉の意味を正確に取ることが難しかった。この部室に誰かしらの生徒がいてくれることを望んだのか。それとも彼は私の存在を覚えていた? 私の思考回路は一種のパニックに陥っていた。突然の来訪者。それの意味するところは何? 沈黙したまま時が流れる。彼は後ろ手に扉を閉め、こっちをじっと見つめる。私の発言を待っているのだろうか。何を話せばいい? ようこそ文芸部へ、とでも言えばいいのだろうか。だけど、彼に入部の意思がないのなら、私はただのピエロになってしまう。でも、そうじゃなければここに来た理由は何? 私に会いに来た? そんなわけない。そんな乙女チックな物語は小説の中だけの出来事。やはり部活の見学に来たと考える方が無難。しかしこんな時期にわざわざ活動しているかどうかも分からないような部活を見学に来るのだろうか。 そんなことを考えていると、彼は再び言葉を発する。 「長門」 「なに?」 「教えてくれ。お前は俺を知っているか?」 やはり彼は私の事を知っている。私と彼は以前、図書館で会っている。私が図書カードを作れずにウロウロしているところを助けてくれたのだ。長門という名前も、カードを作る際の手続きで知ったはずだ。覚えていてくれた? それともただ同じ学校だから、たまたま知っていただけかもしれない。 聞いてみたい。あなたは私の事を覚えているの? 彼が私のもとに近づいてきた。彼の真意が分からないため、「知っている」とだけ答えて彼の方を見る。目を合わせる勇気はあるはずもなく、彼の胸元の方へ視線をやる。 「実は俺もお前のことなら多少なりとも知っているんだ。言わせてもらっていいか?」 希望がわいてきた。この彼は私の事を覚えていてくれていたのかもしれない。 「お前は人間ではなく、宇宙人に造られた生体アンドロイドだ。魔法みたいな力をいくらでも使ってくれた。ホームラン専用バットとか、カマドウマ空間への侵入とか……」
誰かこの状況を説明できる人がいたなら是非とも私のもとへ来て欲しい。彼は何を言ってるのかさっぱり理解できない。難解な本ならいくつも読んできた。理解するために何度も読み直した本だってある。しかし彼の言葉は頭の中で何度繰り返しても理解できない。もし私が一般的な感情を持った人間なら今ここで「ここは笑うとこだよな?」とでも言うに違いない。それくらい彼の言葉は意表をついていた。私をからかっている? 罰ゲームか何かで文芸部で一人っきり本を読んでいる私に突拍子な言葉を浴びせて反応を楽しみに来たとか。一種の気まぐれで以前に図書館で会った少女に意味もなく冗談を言いにきたとか。なんにせよ、彼が私に会いに来た理由が分からない。もしからかわれているのだとしたら、これから私は何もかも自暴自棄になってしまいそうである。そうでないことを願いたい。彼はどんな表情で私を見ている? 私が動揺するのを期待して今にも噴出しそうにでもしているのだろうか。怖い。彼の顔を見ることが怖い。 「……それが俺の知っているお前だ。違ったか?」 「ごめんなさい」 他に思いつく言葉がなく、ただ謝った。勇気を出して彼の表情を見てとると、少し驚いたように見え、すぐに悲しそうな目になった。それを見て私は少し安心した。少なくとも意地悪でからかいに来たのではないのかもしれない。何かしらの反応を期待していたのだとしても、それは大声で笑いものにするようなものではないのだろう。 「わたしは知らない。あなたが五組の生徒であるのは知っている。時折見かけたから。でもそれ以上のことをわたしは知らない。わたしはここでは、初めてあなたと会話する」 図書館で話した記憶しかない……と言おうとして、やめた。 「……てことは、お前は宇宙人じゃないのか? 涼宮ハルヒという名前に何でもいい。覚えはないか?」 宇宙人……これは一種の暗号か何かだろうか。図書館で会ったときのことを思い返してみるが、心当たりはない。その時に借りた本には宇宙人は一切でてこなかったはずだし、涼宮ハルカという名前の登場人物がいた覚えも……「ない」と少し首を傾けながら答えた。 「待ってくれ」 彼は震えるような声で言った。 「そんなはずないんだ」 そういうと彼はテーブルを迂回して私の元へやってくる。彼は何かに怯えたような表情をしている。これが演技なら彼はきっと俳優にでもなれるに違いない。それくらい真剣な顔つきだった。私は怖くなって椅子から立ちあがり、一歩体を引く。が、彼からは逃れられず、肩をつかまれる。制服越しに伝わる彼の手の体温を感じながらも、私は彼の視線から目を逸らす。 「思い出してくれ。昨日と今日で世界が変わっちまってる。ハルヒの代わりに朝倉さんがいるんだよ。この選手交代を誰が采配した? 情報統合思念体か? 朝倉が復活しているんだからお前も何か知ってるはずだ。朝倉はお前の同類なんだろう? 何の企みだ。お前なら解りやすくなくとも説明はできるはずだ……、」何かを続けようとして彼はそこで黙り込んだ。 私は彼の視線から逃れるように目を瞑って思考をまとめてみる。世界が変わっている? これはどういう意味なのだろうか。私と同じマンションに住む朝倉さんの名前が出てきたことは意外だったが、彼女は彼と同じクラスだから、もしかしたら私の事を何か聞いているのかもしれない。朝倉さんは昨日まで風邪で休んでいたと聞いているので、復活したというのは風邪が治ったという意味なのだろうか。でもハルヒという言葉の意味が解らない。先ほどの会話から人物だというのは想像つくが、聞き覚えがない。朝倉さんの代わりというのはどういう意味だろうか。そんなことを考えていると、肩のあたりに痛みを感じた。彼の手に力がどんどん加わってきている。耐え切れず「やめて……」とすがる様に言った。 彼は状況に気付いたのか慌てて手を離す。いつの間にか壁際まで追い詰められていたのだ。傍から見れば私が襲われているようにも見えることだろう。そんな事態は避けたいが、幸いにもこの部室に入って来る者など皆無なので、心配はなかった。 「すまなかった」と彼は両手をホールドアップして力なく、「狼藉を働くつもりはないんだ。確認したいことがあっただけで……」と言い、近くのパイプ椅子に腰を下ろす。一瞬、部室内を改めて見渡すようにして「ちくしょう」と呟くと、頭を抱えるようにして何かを考え込むようにして黙り込んでしまった。 私もしばらくの間、壁際に立ったまま考え込んでいた。もしかしたら彼は何かを勘違いしているのかもしれない。別の誰かと図書館で会った少女を混合してしまっていて、今日彼が会いにきたのも、その別の誰かなのかもしれない。正確に言えば私と存在が同化してしまっている誰か。しかし彼の中ではそれは私自身なのだろう。そう、確かなことは彼は私に会いに来てくれたのだということ。違う誰かと同化してしまっているという事実を除いて。だが彼の記憶の中の私と、私自身が別のものだと気付いたら、彼は私に対しての興味を失うのだろうか。彼の言う私とは宇宙人であり、生体アンドロイドであり、魔法を使えて涼宮ハルカという人物の知り合い。冷静に考えてみて、あるわけがない。そんな人間は存在しない。小説の中でなら、存在するかもしれないが。しかし現実にはいないのだ。やはり彼が会いにきたのは私以外の誰でもないのだ。では何故? こんなにも理解しがたい行動を彼がとった理由は何? 文芸部に現れ、現実ではありえない言葉を並べて、逃げるように出ていくわけでもなく、居座っている。これが彼なりの入部の意思表示だとしたら、神様もとんだ難題を私に降りかけてくれたものだ。今流行の風邪で頭が混乱しているせいで取った行動とも考えられる。 彼ははっと気付いたように顔を上げ、こちらの状況を確認する仕草を見せる。ふと私は妙な感覚に陥っていた。どこか懐かしい、けれど最近まで確かに感じていたはず。デジャヴというものだろうか。私と彼はこの部室で一緒にいたことがある。いや、そんなはずはない。彼と話したのは図書館以来だ。少なくとも部室には私しか数ヶ月ほど訪れていない。 ではこの奇妙な感覚は何? 涼宮ハルヒ……私はその言葉を頭の中で繰り返していた。私はその人を知っている……? いつ、どこで知り合った? いや、本当に知ってるのかどうかさえ怪しくなってきた。彼の言動に惑わされているだけなのかもしれない。 「マッガーレ」 その言葉は自然と出てきた。そしてしまったと後悔する。私は何を言ってるのだろう。自分でも理解不能だ。彼は怪訝とした顔でこっちを伺っている。「なんでもない」と平静を装ってみる。私はこの言葉をいつ聞いたのだろう。彼と涼宮ハルヒとマッガーレ。何か大事なことを忘れている気がした。もしかしたら私も流行ってる風邪にかかってしまったのかもしれない。彼と同じようにきっと記憶が混乱してしまっているのだ。 彼を見ると先ほどまでの強張った表情は消え、穏やかないつも廊下で見る彼に戻っていた。「すまん」と言い、離れた場所に座りなおす。立ったままの私に場所を譲ってくれたのだろうか。その姿を見ると、何か難しく考える必要はないのかもしれないと思えてきた。入部届けを彼に渡し、これから二人で部活を過ごす。それが出来たなら、なんて良いことだろうか。今まで何度も思い描いてきた状況じゃないか。でも本当に彼にその意思があるのだろうか。彼は相変わらず何かを考えるように黙っている。ねえ、あなたは今何を考えているの? さっきのはあなたなりの冗談だったの? 私が困った顔してたから後悔してるの? 文芸部に入ってみない? 素直に言えない自分が憎い。待ってても神様は助けてなんかくれないのに。だけどどうしたらいいのか解らない。彼の思い詰めたような表情の中にはどんな意味があるのだろう。彼と目が合う。不意打ちを食らったかのように目を逸らしてしまう。 「長門」 彼はゆっくりと立ち上がると、おもむろにパソコンを指差し、「それ、ちょっといじらせてもらっていいか?」と言った。パソコン……視線を部屋の片隅に有るそれに向けてふと気付く。そしてあれの中に入っているものの存在を思い出す。なんてことはない、私が一人きりの部活を過ごす間に書いた幼稚な小説。一人の少女が図書館で出会った男の人に再会して恋をする物語。見られるわけにはいかないのだ。だけどパソコンを使いたい理由は何だろう。この気まずい雰囲気を打開するため? だとしたらここで断るのはまずい気がした。せっかく彼が気を遣ってくれているのだとしたら、それに合わせるのが自然。私は深呼吸してから覚悟を決める。 「待ってて」 パソコンの前に座り電源を入れる。立ち上がるまでには随分と時間がかかった。その間に彼が「自分で操作できるから」などと言いださなかったことが救いだ。なんとしても彼に見られる前にファイルを移動させる必要があったのだ。このオンボロパソコンめ、死ね。 「どうぞ」一通りの整理を終えてから席を譲る。 「悪いな」と言って彼はパソコン中のファイルを漁り始めた。「……ねえか」とため息を漏らす。 いったい何を探しているのだろうか。なんとなく想像はついた。文芸部のパソコンなのだから、一つくらいの創作小説が入っているのが普通だ。絶対に見られてはいけない一つのファイルだけはしっかり削除したが、いくつかのファイルは残ったままだ。だが、たとえ彼とは全く関係ない小説であったとしても、見られるのは少々抵抗があった。見られでもしようものなら、即座に電源コードを引き抜いてしまうかもしれない。だが、もし彼がその小説をネタに会話を広げようとしているのだとしたら? それなら見られてしまうのもアリなのかもしれない。そんな葛藤が私の中で続いていたが、どうやら諦めてくれたようである。助かった。 彼は席を立ち、「邪魔したな」と疲労した声で告げる。扉へ向かう彼の後ろ姿を見て、言葉にならない声がでかかりそうになる。帰らないで。このまま彼が行ってしまうと、二度とチャンスは訪れない気がした。私はずっと彼ともう一度話したいと願ってたはずだった。あの図書館で会って以来、ずっと願ってたはずだった。彼が同じ学校の人だと知ったときは凄く嬉しかった。だから今日彼が部室に入ってきたときには、心臓が口から飛び出そうになったくらいだ。なのに彼はわけのわからない言葉で私を惑わし、真意も告げずに出て行こうとする。私が取るべき行動は何? 「待って」と言ってから自分でも驚いた。でも、もう引き返すわけにはいかない。使う機会はないと思っていた藁半紙を本棚から引っこ抜き、慌てて彼の前に立つ。彼の顔を見ようとして、やはり胸元の方へ視線を向けたまま「よかったら」と彼に差し出す。鼓動が早くなっているのが解る。彼に聞こえているんじゃないかとさえ思う。「持っていって」そういうのが精一杯だった。初めて誰かに渡した白紙の入部届けだった。 彼に藁半紙を手渡した瞬間、景色が回るのを感じた。不意に前に倒れ込む形になり、彼に支えられる格好になる。 「長門、どうした」 「なんでもない」 と言うと、額に彼の手が触れるのが解った。「凄い熱じゃないか」そう言われて、やはり流行りの風邪だということを悟った。先ほど感じていた妙な感覚もきっとこのせいなのだろう。「しっかりしろ、長門! なが……」言いかけて、私の上に倒れ込む彼。ああ、きっと彼も風邪なんだろう。全て納得がいった。彼の常軌を逸してる態度は風邪のせいだ。今日の出来事は全てウイルスが引き起こしたのだろう。それでも私は嬉しかった。彼に再会できたことが何より嬉しい。「すまん、長門」と彼は謝るが、そんなことはどうでも良かった。ただ彼の体温を感じられることが幸せだった。でも重い。 「長門、眼鏡かけない方が可愛いと思うぞ。俺、眼鏡属性ないし」 またもや彼は意味不明な言葉を発する。これも風邪が原因だろうか。私の眼鏡は倒れた時に転がり落ちてしまっていた。 「眼鏡属性って何?」 と聞くと、彼は慌てて否定した。そんな彼が可愛くて愛しかった。 「WAWAWA、忘れ物~♪」 突然、扉が開く。目に飛び込んできたのは一人の男の人だった。彼の名前は知っている。谷口、私が想いを寄せている人の親友。廊下でスレ違う度に一緒にいるところを目撃している。私たちの姿を見て、驚愕の視線を送り、そしてネクタイを結びなおす仕草をする。 「ごゆっくりぃぃぃぃぃ」 と言って出て行ってしまった。面白い人。 「長門、実は俺ショート萌えなんだ」 私の上に寄りかかっている彼が呟く。「ポニーは無理」と言うと彼は笑っていた。今年の風邪は凄く危険なようだ。そんなことを思いながらも、これから彼との二人きりでの部活動を想像し、胸を躍らせていた。邪魔者ハルヒのいない世界で。キョンは私のもの。 PR |
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