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小説「涼宮ハルヒの消失」の世界でキョンと長門が会った後からのパラレルワールド的SS。一応、うp順にストーリーはつながってます。長門は俺の嫁。谷口自重。ずっと長門のターン。ちなみに消失を読んでない方には分かり辛いと思います。
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消失ver.でキョン入部後のお話。
谷口自重という声は聞こえない。あ~聞こえない。あ~あ~あ~。

 一日の授業が終わり、すぐさま私は文芸部の部室へと走る。そして誰もいないことを確認し、椅子に座って読みかけの本を開く。私は本を読むのが早い方だと自覚していた。けれど最近は思ったようになかなか読了できないでいた。本来なら一週間もかからない厚さの本にもう二週間はかかってしまっている。原因は解っている。しばらくして部室の扉が開く。私は本に目を向けたまま読み続ける。私以外に訪れる人物はたった一人しかいない。そして私の読書を妨げる最大の要因。それが彼。

「おーっす」

 と言っていつものパイプ椅子に彼は腰を下ろす。特に会話はしない。私は読書を、彼はパソコンをいじったり、携帯ゲームで遊んだり、たまに気まぐれであろう読書に勤しんでみたり。そうして下校までの間、それぞれの時間を過ごす。彼にとっては退屈かもしれないが、私にとっては幸せだった。彼が入ってくるまで、部室には私以外に誰もいなかった事実を考えると、大きな展開である。もし彼が退屈でつまらないと思うなら、ここには来ないだろう。しかし、相も変わらず訪れてくれているのには何か理由があるのだろうか。おそらく私が彼を満足させられるようなことをしてあげるのは不可能に近い。彼が来なくなったなら、それは仕方のないこと。

 

「長門、それいつ読み終わるんだ?」

 静寂した空間を切り裂くようにして話し掛けられる。「もう少し」とだけ答えて、彼の方に目を向ける。しかし彼の私の心を見透かすような目と合い、すぐさま視線を本に戻す。

「同じこと一週間前にも言ってたぞ」

 事実、ぜんぜん読み進められていなかった。何故かというと、まともに文字を追えるのは彼が部室に現れるまでの数分で、それ以降は何が書いてあるか判別できなくなってしまい、ただ本と睨めっこするだけで時間が過ぎてしまうのだ。彼がこの部室という区切られた空間に存在するだけで、私の中にある問題が生じてしまうからだ。それは緊張。平静を保つことの難しさを身をもって知った。私がページをめくろうと指を動かすだけでも、彼に観察されているのではないかと感じてしまい、躊躇してしまう。結果、いつまで経っても本を読み進められていないのだ。そんな私のことすら、もしかしたら彼は見抜いているのかもしれない。

「こないだのもう少しと今のもう少しではニュアンスが違う。確実に今のもう少しは前よりも進化している。物事を終えるまでには過程がある。今はその途中」

「ふーん」

 こうして一言二言の会話を終えて、またいつもの日常に戻る。私はページのめくられない本と睨めっこを続け、彼は流行りの携帯ゲームを取り出す。彼は文芸部に入部してきたからと言って、特別その内容に興味があるようではなかった。ただ「ここが俺の居場所なんだ」と言ってるが真実は解らない。しかし彼がこの場所を自分の居場所だと言ってくれるなら悪い気はしなかった。私と彼との二人だけの居場所、そう考えると嬉しくもあった。

 

 時折、彼は居眠りしながら突然「朝比奈さん、お茶ください」と寝言を言うことがある。朝比奈さんという名前には聞き覚えがある。この学校の二年生だ。噂ではファンクラブが存在しているというほどの人気らしい。何度かそれらしき人を見かけたことがあるが、確かに美人でおしとやかでスタイルもいい。もしかしたら彼は朝比奈さんのことを好きなのかもしれない。そう思うと胸に痛みを覚えた。私が朝比奈さんに敵わないことは明白だったからだ。地味で本ばかり読んでいる私に誰が興味を示すというのだろうか。彼の目には私という存在はどう映っているのだろうか。彼が言う通りに宇宙人だったならば、彼の興味を向けることが出来るのに。自分が特別な存在でありたいと願ったのは生まれて初めてのことだった。

 ふと彼を見ると携帯ゲームに夢中のようで、私の事など全く気にしていないようだった。私の視線に気付いた彼は「お前もやるか?」と言ってゲーム機を差し出す。

「いい」

「そう言うなって。案外ハマるぜ? 少なくとも俺の知ってる長門は俺が小泉と何かしてたら興味を示してやらせてみたらすぐに俺たちよりも上手くなっちまったんだぜ」

「小泉って誰」

「あ、いや何でもない。ほら、やってみろよ」

 そう言われてゲーム機を無理やり手にもたされる。私はぎこちない操作で画面に現れている戦闘機を動かす。動かす、と言っても戦闘機はくるくる回り始めて、ちっとも前に進まない。三秒後にはどこかからやってきた敵らしき機体と接触してゲームオーバーの文字が映し出される。隣で彼が笑う声が聞こえた。「やっぱりいい」と彼にゲーム機をつき返す。「そうか?」と彼は渋々受け取る。私はまた本を取って目を背ける。

「けどな、俺の知ってる長門は何でも出来るんだぜ。ゲームだって最初はダメでも気付けば他の誰より上手くなっちまうんだ」

「それはない」

「そんなことないさ」

 彼の言葉の意味することは解らない。彼は頻繁に理解できないことを言い、私を戸惑わせる。それが彼の冗談なのか、本気で言ってるのかは謎だ。冗談ならもう少し解りやすくして欲しい。

 

「そうだ」

 再びゲームを延々とやっていた彼が口を開く。「ちょっと待ってろよ」と言って部室から出て行く姿が見えた。少しして扉が勢いよく開かれる。そこにはギターらしきものを持った彼がいた。どこかからもってきたのか、「これ、弾いてみてくれよ」と言いだした。

「弾けない」と告げる。ギターなど触ったこともなかった。

「大丈夫、すぐに弾けるようになるさ。何しろお前は文化祭の時にたった一時間で曲をマスターしたんだからな」

「ない。文化祭では創作した小説や、ある本に関しての考察を書いたものを部室に並べただけ」

「ああ、こっちではそういうことになってんのか」

 と彼は言いながらも私から本を奪い取ってギターを持たせる。「どうすればいいの」と聞くと、彼は後ろに回って正しいと思われる持ち方をさせる。右手にピックと呼ばれる三角形をしたものを持たされ、そのまま彼の右手に私の右手を捕まれたまま、真っ直ぐと振り下ろされる。ギターはぶよ~んとした音を放ち、次第に音が消える。「痛い」と私が呟くと彼は「ごめん」と慌てて右手を離す。

「そっちじゃない。左手の方。指が痛い」

 細い弦を指で押さえるという動作が必要なため、私の左手は普段感じることのない痛みを覚え、緊張状態になっていた。こんな痛い思いをするのに、どうして人は好き好んでこんなものを弾きたがるのだろうか。理解できない。

「ははははは。やっぱ無理か」

「無理」

「お前は本当に普通の女の子になっちまったんだな」

「私は昔から私のまま。何も変わってない」

「そうだったな、ごめん」

 彼は私に何を望んでいるのだろうか。何でもこなす宇宙人的存在を望んでいるのなら無理な注文だった。出来ることなら彼の望みを叶えてあげたいとは思う。しかし彼が突きつける難題は私の手に負えるものではなかった。

 

「今日は帰るよ」と立ち上がって彼は言う。

「そう」

「悪かったな、そのなんつーか」

「いい」

「んじゃ、またな」

 私は彼に視線をやる。軽くうなずいてから本を手に取る。またな、と彼は帰るときに必ず口にする。それは明日も来てくれるという意思の表れなのだろう。その言葉を聞くと、少し安心する。彼がいない時間だけが私がまともに本を読み進められる時間。少しでも情報を取得しようと私の脳はフル回転を始めた。気がつくと日も暮れて下校の時間になった。

 

「WAWAWA、忘れ物~♪」

 聞いたことのあるフレーズが耳に入ってくる。視線の先には谷口がいた。部室にいる私を確認すると、もう一人いるはずの人物を探す。「あれ? 一人?」

「彼ならいない」

 それを聞くと谷口はネクタイを結びなおしてから言った。

「間違えたぁぁぁぁぁぁ」

 面白い人。

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