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小説「涼宮ハルヒの消失」の世界でキョンと長門が会った後からのパラレルワールド的SS。一応、うp順にストーリーはつながってます。長門は俺の嫁。谷口自重。ずっと長門のターン。ちなみに消失を読んでない方には分かり辛いと思います。
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①の続き

 そうこうして部室へ戻ると、とんでもない光景が広がっていた。部室が消失した。いや、正確に言うと、部屋の中にあったはずのものがごっそりと消えていた。本棚やら持ち運ぶには厳しいものは残されていたので、誰かの仕業に違いないだろう。だとしても犯人は誰だ? 目的は何だ? そして俺のゲーム機はどこだ?

 長門はしばらく部室を見渡したあと、床に座り込んでお弁当を取り出す。

「長門、何か言うことはないのか」

「問題ない」

「心当たりはないのか」

「ない」

 いったい、どういうことだ? まだ宇宙人やらがやったとかいう方が可愛げがあるぞ。現実的な嫌がらせだとしたら性質が悪い。仕方なく床に長門と並んで座り、パンを口に押し込んでエネルギーを補充する。さて、行動を開始するとしようか。

「長門、ちょっと職員室いってくるわ」

「そう」

 俺は床に座り込んだまま本を読んでいる長門に向かってそう伝えてから、大急ぎで職員室まで向かった。まさか廃部とかないだろうな? だとしても部員の荷物まで撤去するのは考えにくいが。

 

「ええ? 知らないよ。何かの間違いじゃないのかね」

「いえ、確かにものがなくなってるんです。俺の……鞄とかも」鞄の中には大したものは入ってないし、取り返したいのはゲーム機くらいだが、さすがにそれを言うのはまずい気がした。おそらく長門の荷物の中には財布が入ってたはずだ。少なくともそっちは取り返さないといけない。

「そうだねえ、確かに文芸部は部員も少ないが伝統のある部だからねえ。一人でもいるうちは廃部なんかにはならないよ。だとしたら誰かのいたずらだとしか考えられないねえ。心当たりはないのかい?」

「ないから、相談しに来たんです」

「う~ん。とりあえずこっちでも探してみるから、何か判るまでは待機しててくれないかね? 校内で盗難が起きたなるとこれは一大事だ。他の部にも影響がないか心配だからね。出来る限りのことはやってみよう」

 と言われて、俺は職員室を出る。戻り際にコンピュータ部やらに顔を出してみるが、特に変わった様子はないらしい。となると被害にあったのはうちだけかもしれない。そもそも、ただの盗難なら金目のものだけ持っていけばいいだけの話だ。わざわざテーブルやら椅子を部室から消してしまう必要性がない。これは悪質な嫌がらせだ。としても狙われたのはどっちだ? 俺か? 長門か? それとも文芸部そのものか? なんにせよ、犯人は必ず見つけ出さなければならない。

 部屋に戻ると長門の姿がなかった。おい、冗談だろ。まさか俺がいない間に犯人は部室に戻ってきたんじゃないだろうな。そう思って慌てて部室から出ると長門がいた。

「トイレ」

 そう恥ずかしそうに呟いてから、部室の中に入る。俺の心配は単なる取りこし苦労に終わった。

「ねね、ちょっといいかしら」

 部室の入り口をふさいでいた俺たちの前に女子生徒が二人やってきた。「ミス研のものだけど」

「なんの用だ」

「ちょっと部室の中、見せてくれない」

 と言って覗き込むようにして中を見渡す。「うわー本当に出たんだ。夏でもないのに」

「出たって何が」

「知らないの? この学校にまつわる七不思議の一つ」

 ミス研の女子生徒が言うには、昔の文芸部に京子という名前の部員がいて、その人はいじめが原因で自殺したらしい。よく京子さんのものが隠されたり盗まれたりしたそうだ。最初はその程度だったが、だんだんいじめはエスカレートしていって、最終的に自殺に追い詰めるにまで至ったらしい。その恨みを抱えた京子さんは、こうして夏になると今も学校内を彷徨っているということらしいが、なんてバカバカしい。確かに俺は不思議な現象を今まで散々見てきて、普通は信じないようなことでも信じるようにはなっていた。だがそれは以前までの話。ハルヒが作り出した出来事にしか過ぎない。今はもう状況も変わり、ここ数ヶ月の間に長門と一緒にいるうちに変なことは何も起きなかった。もしそんな七不思議があったとして、今回の事件に結びついているとしても、それは誰かが京子さんを演じて見せただけに違いない。単なる嫌がらせだ。

 

「椅子がないと不便」

 ミス研が去っていった後、床に座り込んで本を読み始めていた長門は言った。「そうだな」と返す。

「長門、お前は幽霊なんて信じるか?」

「ない」

「だろうな」

「今は季節が違う。小説ではそういう事が起きるのは決まって夏。今は春」

長門、そういう問題でもないのだが、まあ気にしないことにしよう。俺は犯人が誰なのか必死に思考中だった。外部の人間の仕業か? それは考えにくいな。校内に入ってきてたりしてたら目立つし、それなりの目撃情報があってもおかしくない。内部の人間だとしてもこんなことをやりそうなのは涼宮ハルヒくらいだ。しかしあいつは今は違う学校の生徒だ。朝倉? いや、あいつだって今はまともだ。長門を悲しませるようなことをする奴にも見えない。俺は誰かの恨みを買ったか? 覚えはない。まぁ恨みを買うという行為自体が本人は自覚がないことが多いが。なにしろ犯人の目的が解らないだけに考えはまとまらなかった。床に横になって考えているうちに、俺はいつの間にか深い眠りに落ちてしまった。

 目を覚ますとあたりは真っ暗で既に日は暮れていた。「長門?」と囁いてみるが返事はない。手探りで電気のスイッチを入れてみるが、部屋の中に長門の姿はない。またトイレか? それとも帰ったのか? 盗難のせいで元から鞄がないだけに判別も難しい。それより犯人はどうなった? 見付かったのか? ったく、こんなときに寝てしまうなんて不謹慎極まりない。少しは自重しろよ、俺。なんてことを考えていると扉が勢いよく開かれて長門が目に飛び込んでくる。

「谷口……」

 どうした長門、俺は谷口という名前に生まれた覚えはないぞ。あいつと兄弟になるくらいなら死んだ方がマシだ。いや、俺が死ぬのは勘弁してもらいたいから、あいつに死んでもらおうじゃないか。谷口、今まで楽しかったぜ。じゃあな。

「死んでる」

 そうそう、たった今、谷口は死ん……待て、長門は何て言った? こんな冗談を言う奴だったか? 聞き間違いか? それともまだ夢の中にいるのか?

「きて」

 連れられて1-5の教室に来ると、確かに谷口は死んでいた。胸をナイフで刺されて倒れている。胸のあたりには血で白いシャツが真っ赤になっちまってる。谷口? おい、起きろよ。今ならお前と兄弟と言われても我慢してやるさ。これは何だ? また小泉が仕掛けた自作自演か? ふと嫌な記憶が蘇ってくる。俺は以前この教室で朝倉に殺されかけた。長門に助けられなかったら俺は今の谷口みたいに床に転がっていただろう。その長門といえば今は横で俺のシャツの裾を離さないように掴んだまま悲しそうな目で谷口を見つめている。今、殺人鬼なんかに襲われでもしたら、とても長門に期待するわけにはいかない。むしろ俺が守ってやらなければならないのだ。とにかく、今やるべきことは谷口の状況を確かめることだ。まだ死んでると決め付けるのは早すぎる。そう思って教室へ入ろうとしたところで部屋の中に人影が見えた。そんな……なんてこった。

「こんにちは」

「朝倉」

「誰それ」

「お前はやはり以前のお前のままなのか」

「なにを言ってるのか解らないわ」

「ふざけるな。何が目的だ。世界を変えたのも、そもそもお前の仕業か?」

「そうだったら、どうするの」

「やめろ、今のハルヒには何の力もない。長門だって今はもう普通の女の子なんだ。だいいち……谷口は何の関係もないだろう」

「そんなの関係ないわ。私は京子」

「京子?」

「そう、私は昔ここで自殺した。苦しかったわ」

 俺は奇妙な感覚を覚えた。何だこれは? どうなっている。京子とかいう幽霊が存在して朝倉に乗り移ったとでもいうのか。教えてくれ、長門。こんなことが有り得るのか? 横にいる長門を見ても、意味がないことは解っていたが、つい頼ってしまう自分が虚しかった。今の長門には何も出来ない。これが普通だろ? いつでも俺をピンチのときに救ってくれるような長門は存在しないんだ。

「あなた達にも味わせてあげたいな」

 朝倉だって普通の女の子に戻ったはずだ。それにこれが以前の朝倉だとしても何かがおかしい。京子だなんて言う必要がどこにある。これは間違いなく以前の朝倉とは違う。いきなり俺を殺そうとした朝倉とは別の理由があるに違いない。じゃあ、何だ? 朝倉が俺を殺す理由がどこにある。そして谷口はどうして殺された。ただ幽霊となった京子が無差別に起こす殺人か? そんなバカな。考えろ、どこかにヒントがあるはずだ。ヒント? そういえば長門はいつだって俺にヒントを与えてくれてたな。ってそんなことを考えても無駄だろ。今は長門のことは忘れろ。……ちょっと待て。俺は何を考えていた。ヒントを長門がくれる? そうか、そうだったな。長門は変わっちまっても長門のままなんだな。ありがとうよ、長門。

「朝倉、芝居はやめろ。谷口も起きろ。んでもって部室を元に戻せ」

 そう言うとさっきまで真剣な表情だった朝倉に驚きの表情が見て取れた。そうなんだな、長門。

「私は京子よ」まだ言うか。

 俺は教室に入っていって谷口を思いっきり蹴飛ばす。「いて」とわめく。死人が喋るな、アホめ。そんな谷口を見て朝倉はお手上げといわんばかりに両手をあげ、「バレたか」

「今は春なんだよ。京子が出てくるのは夏」

「お、よく気付いたわねえ」

「これを計画したのは誰だ? 俺と長門に何の恨みがあってのことか詳しく聞かせてもらおうじゃないか。そして携帯ゲームを返せ」

 朝倉の口から犯人の名前を聞かされる。そして季節外れの幽霊騒ぎは幕を閉じた。小泉といい、こいつらといい、どうして演技とはいえ簡単に人を殺すかねえ。もう少し遠慮してもらいたいもんだ。

 

 部室は元の部室に戻った。というより、元々部室には何も起きてなかったらしい。ただ犯人の仕業で俺が錯覚させられただけだったのだ。

「コンビニから帰ってから訪れたのは隣の部屋。部室の札を替えただけ」

「なんでそんなことをしたんだ」

「退屈そうだったから」

「んで俺を驚かせるために一芝居打ったってわけか」

「そう。朝倉さんが手伝ってくれた。あと谷口」

「ミス研もか?」

「そう」

「京子さんってのは作り話か?」

「全て台本通り」

「お前が書いたのか?」

「そう」

「俺が気付かなかったらどういうオチだったのか知りたいもんだ」

「気付くのも台本通り。ちゃんとヒントを混ぜておいた」

「そのヒントを見落とすかもしれないだろ」

「でも気付いた」

「なんとかな。もう少し解りやすくして欲しいぜ」

「楽しかった?」

「ん? まあな」

「そう」

 少しだけ長門が笑った気がした。

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